「コーナリングスピードが上がる」
メリットがあると思いますが、一方で
「加速が鈍くなる」
デメリットもあるのではないかと思っていて、どんな場合でもGTボディが速い、ということにはならないのではないかと思っています。ここでは540モーター、タミヤサーキット、TA03Rという条件下で二つのボディを計算上で比較してみます。
基礎モデルでは、加減速時における空力の影響はパラメータとして織り込まれていますが、ダウンフォースによるコーナリング限界スピードの向上、という要素が入っていませんので、ここで考えてみます。
まず、基礎モデルを計算したときの解釈から見ていきます。
コーナリング時の遠心力F(kgf)=車体重量W(kg)*走行速度v(m/s)^2/(9.8*コーナー半径R(m))
が、横滑りの抵抗力
抵抗力F'(kgf)=荷重倍数G*荷重W(kg)
と釣り合う点がコーナリング限界でした。
ここでダウンフォースによる下向きの力が加えられると、
F'=G*(W+ダウンフォースD(kgf))
になり、ダウンフォースの分だけタイヤの抵抗力が高くなります。遠心力は変わりませんので同じコーナリング半径ならスピードが向上する、ということになります。ダウンフォースは下記の式、
D(kgf)=ダウンフォース係数CL*前面投影面積S(m^2)/16*v(m/s)^2
で求めることができます。
ダウンフォースが前後輪の荷重に応じて比例的に配分されれば好都合なのですが、実際にはそうではなく、一般的にはウイングのついた後輪側により多くのダウンフォースがかかります。このダウンフォースに加えて前後加重配分や加減速による加重移動、セッティングによって発生する前後グリップの差などによって、コーナリング時における前後輪のスライド量の差があらわれ、これがアンダーステア、オーバーステアと呼ばれる特性になります。本計算においては
という前提で考えます。
結局この考え方では、得られるダウンフォースの少ない前輪側がコーナリングスピードを決定することになり、前輪のグリップを超えた速度ではアンダーステアによるコーナリング半径の増大につながる、ということになると思います。
従って、コーナリングスピードvとコーナリング半径Rの関係は、
WF*v2/(9.8*R) = G(WF+v2*CLF*S/16)
(ただしWFはフロントの荷重、ClFはフロントのダウンフォース係数)これを解いて
v=[ (9.8*G*R*WF)/[WF−(9.8*G*R*S*CLF/16)] ]0.5
で計算できる、ということになります。
CD |
CLf |
CLr |
S |
|
メルセデス(GT) |
0.687 |
0.046 |
0.840 |
0.0202 |
インプレッサ(ハコ) |
0.296 |
0.049 |
0.082 |
0.0203 |
この数値を眺めてみると、両者ともほぼ同じ前面投影面積を持っているにもかかわらず、GTの方がCD値が高いことがわかります。これは空気抵抗が大きいということですから、加速時のデメリット、減速時のメリットとなります。ここまではいいのですが、コーナリングの取り扱いに関して、前述のモデルではCLfの大きさのみがコーナリング性能に効いてくるはずで、そうするとGT(CLf=0.046)でもハコ(CLf=0.049)でも大差ないよ、という結果になってしまいます。
じゃあ大きなウイングをつけて空気抵抗を増やしてまでもリアのダウンフォースを得る意味はないのか?という疑問が当然起こります。どうも現実から離れているようなのでもう一度はじめから考えてみます。
冒頭でも述べましたが一般的にはリアのダウンフォースを得ることによって
「高速コーナーで安定する」
「リアをおさえることでコーナリングスピードがアップする」
ことは広く認知されており、私も現実にそうだと思います。前者の「高速コーナーで安定」は理解しやすく、つまり
と考えることができます。
問題は「コーナリングスピードの向上」です。ここについては次のように考えればより現実に近い姿になるのではないかと考えました。
補足説明:
Q.どうして等速運動中に進行方向への推進力が必要なのか?
A.等速であっても車体には減速させる方向への抵抗力がかかっており(空気抵抗+ころがり抵抗)、等速を維持するためにはこれと同じ力が必要になる。
Q.4駆なのにどうして後輪にのみ駆動力がかかるのか?
A.シミュレーションの前提としてフロントまたはセンターワンウェイの装着を設定しており、内輪差によって大きな半径でコーナリングを行わなければならない前輪には駆動力はかからない状態になっている。実際の走行では後輪のグリップ限界を超えた瞬間に前輪にも駆動がかかり、瞬間的にアンダーステアになることでリアのグリップを回復し、もとの状態の戻る。
ちょっと複雑になってきましたが実際の計算に入ります。概要としては、
あるスピード(v)において
1.前輪の限界コーナリング半径R:前輪ダウンフォースをプラス要因として組み入れて、限界Rを計算。
2.後輪の限界R:後輪ダウンフォースをプラス要因、走行抵抗をマイナス要因として限界Rを計算。
3.前輪と後輪を比べて大きい方が実際の限界コーナリング半径
という順番で考えていきます。
前述した式を変形し、
R=(WF*v2) / (9.8*G*(WF+v2*CLf*s/16))
で求めることができます。
2. 後輪の限界R
グリップ限界でのコーナリングでは以下の式が成り立つことがわかると思います(右図参照)注)。
(タイヤ抵抗力)2=(遠心力)2+(走行抵抗)2
ここで
タイヤ抵抗力=G*(WR+v2*CLr*S/16)
遠心力=WR*v2/(9.8*R)
走行抵抗=空気抵抗+ころがり抵抗=v2*CD*S/16+3*μ*W
(駆動による後輪グリップロス(過剰分)は、直進時ころがり抵抗の3倍に相当すると考えています)
これらの式より
R=WR*v2/(9.8*(タイヤ抵抗力2−走行抵抗2)0.5)
ということになります。
注)実際には車体はコーナリング円周上で内側を向いており後輪も横すべり角を生じるので、遠心力と走行抵抗は直交しないが、ここでは直交からのずれは小さいものとして無視する。
3.実際のコーナリング半径は・・・
これらの式を適用し、2種類のボディについてそれぞれ計算してみました。下の表には走行スピードを変えてみたときの前後輪における「限界コーナリング半径」をまとめてあります。(計算表のダウンロードはこちら)
走行速度(m/s) |
メルセデスCLK |
インプレッサ |
||
フロント |
リア |
フロント |
リア |
|
限界コーナリング半径R(m) |
||||
5.0 |
2.12 |
2.13 |
2.12 |
2.19 |
6.0 |
3.05 |
3.03 |
3.05 |
3.16 |
7.0 |
4.15 |
4.06 |
4.15 |
4.30 |
8.0 |
5.42 |
5.21 |
5.41 |
5.61 |
9.0 |
6.84 |
6.47 |
6.84 |
7.10 |
インプレッサでは後輪のグリップが走行抵抗に「食われてしまう」ためにコーナリング半径は大きくなっており、また常にリアの限界の方が低く、もしこれを超えてコーナーに侵入した場合、リアのほうからスライドが始まることが容易に想像できると思います。つまり終始オーバーステア傾向にあり、特に高速域で顕著である、といえそうです。
これに対してメルセデスでは6.0m/sまでの低速域ではほぼニュートラルステアで、しかし高速域ではリアのグリップの方が勝ってきます(アンダーステア)。インプレッサと比較したときに高速になればなるほどリアのグリップはあがっているように見え、これがダウンフォースによるリアグリップの向上を表しているわけです。これにより後輪の走行抵抗をほぼうち消すことができ、全体を通してインプレッサよりコーナリング性能に優れていることがわかります。また、高速域でアンダー傾向にシフトすることによって操縦性もマイルドになり、スピンのリスクを減らしていることも想像できます。