はじめに


写真3枚合成したのだ ラジコンのサーキット走行をはじめると、多くの人がまず気になりだすのが「どうしたら速く走れるのだろうか」ということだと思います。そこで、朝もはよからサーキットに足を運んでいそいそと練習に励んだり、雑誌やうまい人から、(実にさまざまな)情報を仕入れ、オプションパーツをくみこんだりして車の改良をしたりするようになります。

 ところが、情報を集めているうちに、「そこまでやんなきゃいけないのか?!」と思いたくなるような実に細かいが,しかし実行するにはかなりの努力を要する”ノウハウ”にも出会うことになります。
いわく,
「車体重量は1gでも軽くするべし」、「金属パーツ(けっこう高いんだこれが)をくみこむことで各部の剛性が増し・・・」、「駆動ロスを最小にするためにギアにテーパー加工するといい」、「GTボディじゃなきゃ空力的に話にならんよ」・・・・

 たしかに、そういったノウハウは「正しい」ものばかりです。車体は軽いに越したことはないし稼働部は軽いほうがいいし。しかし、もし次のような「数字」があったら・・・・・・

”10gの軽量化をすると、ラップタイムは0.008秒縮まる”

 0.008秒の差といえば最高速度でもたった8cmの差です。一方、10gの軽量化というのはかなりの労力を伴うのではないのでしょうか?わずか8cmのアドバンテージのために、たとえばシャシーの穴あけまでしようとは思わないのではないでしょうか。

 ここでは電動ラジコンカーがサーキットを周回するときの力学的なシミュレーションを行います。システムとしては基礎的なものですが、これによって、たとえば車体重量がどのくらい増えるとラップタイムにどのくらい影響するのかといった、「定量的」な議論がある程度可能になってきます。具体的には、まず車体に関してのデータを集め(ここでは主にTA03Rを扱います)、続いてサーキットコース(ここで扱うのはタミヤ静岡サーキットです)を数値化し、これを使ってシミュレーション計算を行います。概略を図にするとこんな感じです。

走行計算概略

 はじめに車体の重さ、モーターパワーなどのパラメータを設定し、これに基づいて(1)加速性能(2)減速性能(3)コーナリング性能の3つの基本性能を計算します。次に、シミュレーションを行うサーキットコースの図面から、走行ラインを決定します。最後にシャシーの基本性能と走行ラインを元に、サーキットを走行した状況をシミュレーションします。最終的な計算結果としては、サーキットを周回したときの各コーナーや直線部分での速度、時間、コーナリング半径などが算出されることになリ、それらの合計で全体のラップタイムを算出します。

ライン概略図


 走行ラインの考え方ですが、サーキットの走行の状態として大きく次の3つのモードに分け、これらを組み合わせることによってコースにあわせ周回することにします。

 コーナーの走行ラインは、なるべく大きく半径をとったアウト−イン−アウトの円弧で、途中での加減速は行わないという基本のコーナリング方法とします。タイヤ限界ぎりぎりにおけるグリップ走法、という前提ではこの走法が最速であることがわかっています。理論上最速のラップで周回するためには、すべてのコーナーにおいてできるだけスピードを落とさずにまわり、その後の直線でフル加速し、次のコーナーに合わせた必要最小限の減速を可能な限り短時間で行う、ということの繰り返しが必要になってきます。

 もちろん、この計算システムでは、走行中に起きているすべての現象を説明しているわけではありませんし、確かに現実とは異なる結果が出てくる場合もあります。しかし、このような、いわば「精度があらい」分を差し引いても、チューンナップやドライビングテクニックの向上に重要な知見を提供してくれるはずです。

 なお、本コーナーの計算法は、

に基づいています。このシステムは非常に完成度が高く、テキストがわかりやすく丁寧に解説されていますので、興味を持たれた方は一読されることをおすすめします。読んだだけでは「え〜ほんとに〜?」といった感じですが、自分で計算してみるとけっこうおもしろくてハマってしまうこと火のごとしです。(←?)

 さきほど例に挙げた車体重量のほかにも、パラメータを変化させることによって、例えば、

などいろいろなシミュレーションができると思います。

 サーキット走行のセッティングやテクニック向上には「現場」での試行錯誤が必要ですし、またそれが楽しいのですが、理論的なバックボーンがあれば、いろいろ実験してみた結果を自分なりに考えてみるための情報が飛躍的に増大し、これもまた楽しみかたのひとつになると思います。もちろん、頭で考えてすぐ速くなるというわけではないんスけどね。

 では、次のページから実際に「TA03Rが静岡タミヤサーキットを走行した」場合のシミュレーションを行い、その結果を検証してみましょう。


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