ワールドドローム2002
シミュレーションシステム精密化
モーターパワー、バッテリー電圧のファクターを組みこむ!
2002/06/28
本HP「お気楽RC!」では、ラジコンカーの走行の様子をシミュレーションする「走行計算」を以前より試みています。
世界一のハイスピード・オーバルレース「ワールドドローム」におけるシミュレーションも昨年検討し、実測データとよく一致する計算方法を見いだしました。
昨年は、周回中の速度、縦G、コーナリングフォースの関係を理論的に裏付けることを主題にシミュレーションし、データロガー実測値と比較してみました。
その結果、実測値は考えていた理論値にかなり近く、計算システムがまあまあ妥当であることがわかりました。
計算方法について、簡単な説明はこちら(別ウインドウで開きます)
今年は、シミュレーションシステムをより詳細に検討するために、バッテリー、モーターを様々に変えてみたうえでデータを取ってみました。
その結果、やはりモーターダイノ(モーター性能測定器)でよい結果をだしているモーター、電圧の高いバッテリーは実際のレース走行でも高い速度記録を残す傾向にあることがわかりました。今年のデータ概略はこちら参照
今回はさらに詳細に、バッテリー電圧とモーターパワーがドロームの周回速度にどのように影響するのか、をまず理論式でシミュレーションし、それがロガーのデータに一致するのかを検証してみます。
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モーターパワー
今回の実験は、RCモーターのスペシャリスト:宮谷さんとの共同実験です。モーターチューンおよびドローム使用前後でのダイノ測定をいただきました。ありがとうございます。
今回使用したモーターは3つ。
(1)宮谷チューンモーターA(Miya-A)
ドロームにおいて最も酷使されたモーターです。全走行8回中、4回使用しました。
ダイノのデータはこんな感じです。
グラフは、横軸がトルク、縦軸が回転数です。赤のグラフはレース前、青のグラフはレース後に測定したデータをあらわしています。
たとえば、レース前のグラフをみると、12,000rpmの時に約1kg-cmのトルクを出すことができる。と考えることができます。
何もしていない「かわにしモーター」(後述)と比較すると、使用前では圧倒的に優位なのですが、さすがに4回も走った後では、少し負けてしまうところまで性能低下しているようです。
(2)チューンモーターB(Miya-B)
使用前、Miya-Aとほとんど同様の性能です。レースでは一度しか使用しなかったので、使用前後での極端な違いはありません。
高回転のトルクが若干落ちているようですが、ドロームでは使わない回転数領域なので、レースにおけるパワーの違いはほとんどない、といってさしつかえないと思います。
(3)「なにもしてない」かわにしモーター(K02-A)
これは使用後のみの測定になります。
性能的には、やはりいまいちです。^^;)
以上のデータをもとにしたモーター特性をシュミレーションに用います。
(1)Miya-Aは、4回使っておりグラフの推移が大きいので、各走行ごとに、"段階的"な性能低下が起こった、と仮定して、各ヒートでのモーター特性としました。
Miya-B、K02-Aはドローム後測定のデータをシミュレーションに使用しました。
次に、電圧とモーターパワーの関係について考えてみました。
宮谷さんやAORcたてさんにいろいろ教えていただいた結果、おおざっぱには次のように扱ってよさそうだと考えました。
○回転数-トルクの直線が、電圧に比例して上下にシフトする
このように、電圧が1.1倍になると最高回転数も最大トルクも1.1倍になるということです。
理論値の計算
モーターデータがそろったので、いよいよ走行計算を行います。
予選3回目のデータを使って、まずパラメータの調整を行いました。
予選3回目のデータ
検討には、周回開始直後ベストラップを含む部分を使うことにしました。ラップ記録との比較もしたいので。
この部分の電圧をまずロガーデータで参照します。18秒〜29秒の部分で電圧を平均すると、7.20Vでした。
次に、モーターです。ダイノデータは6.6Vで測定されていますから、これを7.2Vのパワーに変換します。
いよいよ、算出したモーターパワーの値を使って周回速度の理論値を計算します。
ギア比、タイヤ径、車重は実測値をそのまま使用し、測定できないCD値や転がり抵抗係数、ギア効率は推測値をもとに多少調整し、実測値と理論値がよく合うパラメータの組み合わせにしました。
これらのパラメータを使った計算の結果と、予選3ヒート実測値との比較です。
ピンク色のグラフがロガーに記録された速度の実測値、青色のグラフが上のパラメータを使って計算した理論値です。
なかなかいいでしょ。
理論値と実測値との比較
さて、ここからが検証の本番です。他の周回データにおいても、理論計算の速度値は実測値と一致するでしょうか!?
もちろん、ここから先に変化させるパラメータは電圧およびモーターパワーのみです!
予選4ヒート目
電圧は20〜30秒の平均値6.87V、モーターはK02-A、「ヨレヨレバッテリー」
一致。
予選5ヒート目
電圧は16〜25秒の平均値7.14V、モーターはK02-A、マッチドバッテリー
一致。
予選6ヒート目
電圧は17-30秒の平均値7.13V、モーターはMiya-B、マッチドバッテリー
一致。
決勝Aメイン
電圧は13-23秒の平均値7.14V、モーターはMiya-A、1日2回目の「過労バッテリー」
一致!
・・・・と、すべての場合でよく一致!することがわかりました!!
すばらしい!!Bravo!!Хорошо(ハラショー)!!
予想以上に一致したこれらのグラフを見たときは、我ながら感動しました。
さらに、このシミュレーションによるラップタイムと、実際のタイムを比較してみます。
10.078
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9.771
|
|
10.480
|
10.204
|
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9.975
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9.722
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10.239
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9.893
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・・と、これはあまりよく合いませんねー。
なぜでしょ・・・・あ!そうか!!
この計算では、周回を250mきっちり最短で走ったときのラップタイムです。前回の検証で、実際には258m走っていることを示唆するデータもありました。
そこで、シミュレーションにおける平均速度の理論値で、"258m"周回したときのラップタイムに換算してみると・・
10.078
|
10.083
|
|
10.480
|
10.530
|
|
9.975
|
10.034
|
|
10.239
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10.209
|
おお!!すばらしい!!理論値との差がすべて0.06s以内に収まってます。Хорошо!!
以上をまとめますと、
電圧によるモーターパワーの変化を推測した
モーターダイノによるデータ、走行中のバッテリー電圧データを使った理論計算は、実測速度データとよく一致した
このシミュレーションシステムを使って
適当な条件での放電時バッテリー電圧とモーターのダイノデータから、ドロームのベストラップタイムを予測する
ことや、逆に、
目標とするベストラップ達成に必要なモーター/バッテリー性能を算出する
ことが可能かもしれません。
あ〜終わった・・・データ解析がうまくいってうれしいです。
これで、やっと私のワールドドローム2002が完結します。
ドローム1日目に開始したデータ記録から2週間・・・私にとって、とても長く、また楽しいレースでした。
では!来年もピストでお会いしましょう!!
補足)ダイノ測定において電流値も測定いただいてますが、グラフでは省略しています。きれいな直線が得られており、今回の回転数領域では20-30Aの電流量であったようです。決勝レース(4分間)後のバッテリー残量(約1000mAh/3000mAh)から計算した平均電流量は30Aと見積もることができ、これとよく一致する値といえます。