走行シミュレーションとロガー実測データの比較
ドロームロガープロジェクト、いよいよ完結!!
2001/06/22
はじめにおこなったのは「走行計算」:走行時のシミュレーションです。これは、計算のみでバンクを周回する時の速度プロフィールを予測できるシステムを構築し、例えば「ギア比を変えた時のラップタイムの変化」のような、実際のレースで役に立つような情報まで提供できることを目指しています。
具体的には、ある時点での「車の状態」から、例えば「0.1秒後の車の状態」を予測します。その際、予測計算には「車体パラメータ」を用います。その0.1秒の計算を繰り返すことで、周回のシミュレーションとします。計算する「状態」や計算に用いる「パラメータ」は下表にまとめてみました。
車の状態 |
車体パラメータ |
ある時点での、 |
その車の基本性能 |
しかしこれだけでは、いかんせん「机上の理論」です。アインシュタインのように、理論のみで正確に現実世界の姿を描写できる天才も世の中には存在しますが、凡人の考える理論というものは必ず現実との「ずれ」を生じます。そこで、じゃあ実際の走行時のプロフィールを測定して、シミュレーションシステムの改良に役立てよう!!と考えました。これがドロームの走行データ取得実験です。詳しくはこちら。
では、いよいよ実際にシミュレーションの理論値とロガーの記録の整合性を検証してみましょう。ロガーデータは、最も安定してデータの取れた予選六回目のものを使います。
さらにこの中でも最も安定して周回を重ねた55秒〜75秒間の約2周分をクローズアップして見てみましょう。さっそく、理論値とあわせてみます!・・・もちろんいきなりドンピシャ!にはならないので、パラメータをすこしいじってみます。
改変前 |
改変後 |
備考 |
|
1.37 |
実測値 |
||
同左 |
|||
1.5 |
実績 |
||
同左 |
|||
0.1 |
最適化 |
||
同左 |
|||
同左 |
|||
同左 |
|||
ダウンフォース係数 |
- |
0.1 |
改変時に加えたファクター |
20900 |
実測値参考 |
||
2730 |
実測値参考 |
では、最適化したパラメータでの理論値/実測値の照合です!!
(1)速度
大体こんなもんでしょうか?もっときっちりあわせようと思えばできるのですが、他の数値(縦G、コーナリングフォースなど・・)との兼ね合いもあるので、まあこのくらいが妥当ではないかと思います。バンク部分とストレート部分では約4km/hの速度差があることがわかります。この「減速」は、実測データにおいて6-8km/hに達しているような場合も多々みうけられました。
(2)縦G
理論値が少し大きめに出ていますが、まあこんなものでしょう。理論値が「角ばった」グラフになっているのに気づくと思います。これは、理論値計算において「のストレート部分から、バンク部分に進入した”瞬間”にコーナリングをはじめる」というコーナリングラインの前提があるからです。
しかし実際の走行ではストレート部分でも多少膨らんだ走行ラインをとることなどで、バンク進入時に急激なライン変化が起こらないようにするのが通常です。
バンク時においても、実測最大値が理論値ほど大きくないのも、ラインをスムーズにすることによって急激な失速を防ぐ、「ラジコン本能」のなせる技でしょう。・・・やはり、人間の感覚ってすごいです。
(3)コーナリング・フォース
いわゆる「横G」です。これも理論値が「角ばって」いるのは上記同様です。最大1.5Gほどのコーナリング・フォースが実測されています。・・・おや?それって、普通のサーキットにおけるコーナリングと同じくらいじゃないですか?(タミヤサーキットにおける実測データ参照)でも、舵角も少ないし、ドロームでは、そんな「コーナリング」してるという感覚からはほど遠いですよねー?
・・・これは、ドロームにおける強烈な走行スピードと縦Gに起因します。尋常でない走行スピードのため、ほんのわずかな舵角で、大きな旋回半径でも、車体は普通のサーキットのヘアピン並みの横Gを発生します。・・・となると、タイヤグリップの限界を越えてしまうことはないのでしょうか?
・・・ここで、上の「縦G」グラフをあわせて見てみますと、大きなコーナリング・フォースを記録している時点、つまりバンク走行時には、同時に最大約2Gもの縦Gが加わっていることがわかります。縦Gは車体を上からおさえつける力ですから、タイヤの限界グリップも約2倍になります。したがって、相対的には通常のサーキットの約半分のタイヤグリップがあればいいわけです。
(4)加速度
前後方向のGです。つまりグラフ上側は加速度、下側は減速度をあらわします。実測値を見て分かるとおり、加減速としてはほとんど記録できていません。非常に緩やかに加減速しているということです。これは操縦時の感覚そのものですね。
以上、苦労しましたがまあまあ現実の値と合致するシミュレーションシステムを構築することができました!今後、レースへの応用が期待されます。
今後、このシステムをもとに「ラップタイム予測」までおこなえるかもしれません。
私、来年のCSCではノートパソコン片手に、
「汝の最適ギア比は1.5であろう〜」
「汝のそのモーターでは11.5sのベストラップが限界であろう〜」
などと、いらぬ予言を繰り返す、「ドローム界のノストラダムス」として暗躍しているかもしれません。わ〜、いやなヤツ〜^^)。
○その他気づいたこと
1.理論のみの計算でも結構いいセンいっていた。(算出時には懐疑的だったんですけど・・^^)
縦Gの予測
バンクにおける「失速」を予言
最適ギア比を予測
モーターの個体差によって1秒ものラップ差がある可能性を示唆
2.ギア比って、ある程度まで最適化されると、(この場合は1.4付近)±0.2くらいの幅では、あまりラップタイムには影響しないのかも。
ギア比
|
指数
|
ラップタイム(s)
|
3.やっぱり、ラップタイムに一番影響するのはモーターパワー!!下のグラフは、最終予選でベストラップを記録した時(2周目)のデータです。
これは、上の方でパラメータ最適化に使った、予選六回目の「スタート直後」の部分なんですけど、上の55秒以降のデータとは、縦軸の目盛が違います(笑)。ラップタイムも約0.7秒差があります。
この時の理論値は、モータートルクが上の定常走行時のパラメータに比べ1.1倍の値である、としています。つまり、バッテリー電圧の高いスタート直後のモーターのパワーは、その後の定常走行時に比べ1割増のパワーがある、ということだと思います。
以上!!あ〜、おもしろかったドローム!来年またお会いしましょう!